~はじめに~
現在、我が国では少子高齢化に伴った人口減少による都市の衰退の進行が懸念されています。都市の活気がなくなっていく恐れがあるなかで、コミュニティの活性化などの機能をもったオープンスペースの戦略的な活用が求められています。こういったオープンスペースの活用を推進していくには、地域の活性化にどの程度寄与しているのかを明確にする必要があります。
~研究目的~
我々は、これまでに植生分布の連続性の分析方法を開発し、その特性から広域的な範囲を都市形態の異なる地域に区分できることを明らかにしてきました。さらに、推定地点周辺のデータに重みを加えて局所的な重回帰分析を繰り返し実施していくGWR(地理的加重回帰分析)に基づくヘドニック法の適用から植生分布の連なりが公示地価の上昇を説明付ける一つの要因であることを明らかにしています。
その一方で、オープンスペースの価値はここ数年で変化してきています。そのため、時間軸を考慮した上でのオープンスペースと地価との関連性を分析することが望まれていますが、事例は多くありません。そこで、本研究では地理空間に時間変動を加味したGTWR(地理的時間的加重回帰分析)を採用し、都市の価値を表す1つの指標として公示地価を取り上げ、複数の時期を対象にオープンスペースの分布状態との関連性の分析を試みています。
~植生分布の連続性の分析方法~
①NDVIの算出
広域的に植生分布を把握する手法として、衛星データから算出できるNDVIを採用しています。NDVIとは植生の緑葉が青・赤領域の光を吸収し、近赤外線の光を強く反射するという特性を利用して算出されるものであり、広域データでは、値が高いほど植生が多く、低いほど植生は少ないと解釈されます。
②空間的自己相関分析の実施、SSCの作成
算出したNDVIを用いて、空間的自己相関分析を実施しています。空間的自己相関分析とは、距離パラメータdを変動させながら周囲との自己相関を測定するものです。例えば、右図でaやcのようにNDVIの高い値が集積していれば「正の相関あり」と判定され、bのように低い値が集積していれば「負の相関あり」と判定されます。つまり、「正の相関あり」と判定された領域は、植生被覆量の多い箇所が集積していると解釈でき、「負の相関あり」と判定された領域は植生被覆量の少ない箇所が集積していると解釈できます。
aやcのように正の相関ありと判定された場合は、その画素上に仮想的な層を積み上げ、距離パラメータdを縮小しても正の相関ありと判定される場合には、さらに層を積み上げます。すべての場所でこれを繰り返すことで、NDVIの高い画素の集まり具合を地形のように表現することができ、これをSSC(Spatial Scale of Clumping)と定義しました。
③植生分布変移軸の抽出
SSC の尾根部は、SSC の層の高さが低くなりにくい部分を指しており、森林から都市部へ植生の分布状態が変化するなかで、植生被覆箇所が連なる中心付近を表しています。このように,SSCの尾根部を植生分布変移軸として定義し、抽出しました。
~GWR(地理的加重回帰分析)モデルについて~
これまでの研究では、重回帰分析による推定のモデルにGWRを採用していました。GWRは推定地点周辺のデータに重みを加え、局所的な重回帰分析を繰り返し実施していくものです。それぞれの地点ごとに、ヘドニック法の式を利用して、地価への影響度を見ていくため、地域性を考慮した推定が可能となります。
~GTWR(地理的時間的加重回帰分析)モデルについて~
本研究では、GWRに時間的重みを付け加えたGTWRを採用し、複数の時期を対象にオープンスペースの分布状態と地価との関連性の分析を試みています。GTWRは、二次元の地理空間に新たな次元として時間を加える際に、距離との比率をどのように設定するかが課題の一つとなっています。そのため、現在はこの距離と時間の比率を調査した上で、オープンスペースと地価との関連性について分析中です。